前世の記憶

前世の記憶
             今 昭宏 著

「血を流して倒れている私を私が上からながめている」

彼女は言った。
ここに書くことは2002年1月19日午前
治療室での実話である。

ご主人(再診)の治療が終わり
一緒に来た奥さん(初診)の治療が始まった。
主訴は肩こりと頭痛である。

「おねがいしますぅ」

とベットにアオムケになった。
私は後頭部、首、肩と触診し

「どうですか?痛くないですか?」

と後頭部のコリを気にしている。
奥さんは平気そうな顔で、

「エエ、きもちがいいですぅ」
と目をパチパチしている。

「凝ってはいるけど気持ちがイイか」と
私はぶつぶつ言いながら彼女の足の方に行き

「膝たててみてぇ」

と膝ウラのコリを探った。
コリらしいコリはなかった。

膝の開脚をさせてみた。
これは気持ちがいいというので2回軽く動いてもらった。

次に膝倒し操法をやった。
右に倒しても左に倒しても気持ちがいいというので
2~3回ずつ両方やった。

股関節の屈曲、膝の高さは正常だ。
大した歪みはないと思った。

そして、私はなにげなく彼女の両足の裏を軽くさすりながら
全体が振動するように30秒程揺らしてから止めた。
20秒ほど手を止めたままにして足を押さえている私に
彼女は言った。

「足から腰までじわじわと振動が波のように上がってきて、
空洞の脚の中を何かが流れているのがはっきりとわかる」

というのだ。
そして

「なんですか、これってぇ?」

と不服そうに聞くので、

「気持ち悪いの?」

と私はきいた。
彼女は

「いいえ、とても気持ちがイイんですぅ」

と答えた。

こんな彼女をみていて私は思った。
この人は素直な人だ。

その後、そのままで頭のてっぺんを押す快感をちょっと味わい
後頭部を私が支えて彼女が顎を上げる操法を2回やった。
いずれも、彼女の快感に合わせた操法だった。
ここまでで10分位だったと思う。

起きてベットに腰掛けている彼女がボソボソとこんなことを言いだした。

「先生、私小さいときから心のどこかで気になっていた、
やらなければならないことのような、そんな気がすることがあったんです」

と少しうつむいて言うのだ。

私は「へえーっ、そうだったのぉ」といいながら
彼女の左横から左手を胸に
右手を背中にそっとはさむようにして当てた。
一瞬にして私の左手が何かに反応し、ビクビクッと振動した。
同時に、彼女が苦しそうに少し前にかがんだ。

「どうしたの?、なにか感情みたいなものでてきた?」

と私。

彼女の目からはすでに涙がボロボロと落ちていた。

つづく


前世の記憶

「悲しいのかなぁ」

と私。

「そうじゃなくて、せつないんです」

と彼女ははっきりと答え、ご主人が心配そうにくれた
ティッシュで涙を拭きながら少し泣いていた。

私は

「何か見えるのかなぁ?」

とうつむいて泣いている彼女に聞いた。

「ハイ、石の階段を登っている姿が・・・・」

と彼女は意識の中に見え隠れしながら写しだされてくる
映像を追いかけるかのように見ている。
そういうことらしかった。

「横になろうか?」

と私。

彼女はベットにアオムケにどてっと休んだ。
私は彼女の頭の方にいた。
そして、目をつむっても見えてくるという妙な映像を追うこととなった。

彼女はこの石の階段を登っている女性が自分であり
黒いマントのような物で身を隠していて
この先で自分が処刑されることがわかっているという。
これは自分の前世での出来事だという。

2人の男性に両脇から抱えられてゆき、自分で剣で・・・・・・。
そのとき彼女は自分の流血したなきがらを見ている自分がいて
早くきれいに流してほしいと思ったという。

そして、ここから何故処刑されねばならなかったのかを
探ることにした。
彼女は、目を閉じて

「広い講堂のようなところに、たくさん人がいて、
私がその中に一人いる。」

「裁判にかけられている」

といった。
彼女は自分の処刑が決まった裁判の様子が見えていたらしかった。

ここからの彼女の言動は不思議としかいいようのないものだった。
なにかを怒っているようなんだけれども
その言葉が日本語と英語をまぜこぜにしたような言い方で話すので、何を言ってるのかわからないのだ。

私が顔をしかめていると、彼女が

「日本語だと言葉にならないので、英語で話してイイですか」

という。
私は

「はっ、はいイイですよぉ」

と彼女の頭の方で困りながらそう言った。

「This is a pen」くらいならわかりそうだったが
やはりさっぱりわからなかった。
だが、イカリのような感情
「うぇんなきくまな!はんかし!とになれなぁ!」と
ぶちまけている。
そんな感覚だった。

2~3分たっただろうか。
彼女は目をパチパチさせて落ち着いた様子になった。

私は彼女の後頸部のコリを両手で軽く押さえてみた。
すると彼女の体は、たぶん無意識に動いたものと思われるが、「ググッ」とアゴを突き上げ、背中を「ビグビグッ」と力強くそりあげ、しずかーに脱力し

「ふーーっ」

とため息をついた。

彼女は

「気持ちよかったー」

とスッキリ顔でスッと起きあがりベットに腰掛け、肩や頸をちょこちょこ動かして、

「肩の凝りも頭痛もなくなったぁ」

と目を輝かしていった。
ご主人と私に、なんども3度も

「ありがとう」

といって笑った。

このような現実を、どう理解していいのかは
今のところ私にはわからない。
しかし、この一連の流れの中で、何がどのように関与したのかは
別として、ひとりの人が癒されたのは事実として
受け取ってイイのではないだろうか。