腰痛のおじさん
これは2017年に体験した、印象深い臨床のひとこまです。
ある日、ご近所にお住まいのおじさんが
腰痛を訴えて来院されました。
話をうかがうと、近くを散歩中に
たまたま当院の看板を見かけて立ち寄られたとのこと。
……といっても、うちの看板はA4サイズの
手作りの小さなもので、よほど注意深く見ないと
気づかないほどのもの。
きっと、なにかご縁があったのでしょうね(^^♪
おじさんは以前にも腰の不調があり、
近くの整形外科で検査を受けたところ、
「脊柱管狭窄症」と診断されたことがあるそうです。
実際に身体に触れてみると、筋肉はとても柔らかく、
バランスのよい状態でした。
この方は山登りがご趣味で、
年に何度も登山を楽しまれているとのこと。
そのおかげで、多少のコリはあるものの、
ガチガチに固まっている様子はなく、
むしろ柔らかくて良い筋肉の持ち主でした。
私は得意の「足指操法(末節骨はがし)」を試してみました。
施術後、少し痛みは軽減したものの、
まだ腰の奥のほうに“芯”のようなものが残っている様子でした。
次に、実際に立ち上がって歩いてもらうと、
「立ち上がる瞬間」に強い痛みを感じているようでした。
その様子を見ていて、私はふと小さな違和感に気がつきました。
立ち上がった瞬間に、おじさんが無意識に
「背筋をギュッと伸ばす」動作をしていたのです。
「背筋を伸ばして立ってみてください」と声をかけた後、
「今度は“だら〜ん”と力を抜いて立ってみましょうか」
と促してみました。
すると――
『あれ……?全然痛くない!!』
驚いた様子で、痛みがスッと引いたようでした。
そのまま歩いてもらうと、
嘘のようにスムーズに歩けるようになっていたのです。
おじさんは仕事柄「姿勢は良く」「背筋を伸ばすように」と
指導され続けてきたそうで、
いつしか「背筋を伸ばすこと」が無意識の癖になっていたようです。
このとき私は、「日常の“当たり前”になっている体の使い方」が
身体の不調の原因になることがあるのだと、
改めて気づかされました。
体が本来求めているのは、
“正しい姿勢”よりも“心地よい姿勢”。
操体の臨床は、それを教えてくれる体験の連続です。
この出来事は、私にとっても大きな学びの一つになりました。
今貴史 著