河北町

河北町勉強会 2002.06.06  今 昭宏

おととい、出稼ぎに行きました。役場主催の操体の講習会です。
じいちゃんばあちゃんが30人ほど集まっていました。
最初は、操体などといっても、「どうせ変な体操みたいなこと
でもするんだべぇ」くらいにしか思っていないようで、一番後
ろのばあちゃんなんか、膝が曲がらないらしく、ドデーッと足
を投げ出して夕飯のみそ汁のことでも考えているみたいな顔し
てぼけーっと外を眺めて遊んでいる様子でした。

私は、密かにこのばあちゃんを後でエジキにしょうと心に決め、
へらへらと話をはじめました。
「みなさん、あちこち痛くなったとき、どうしてますかぁ?」
などと質問形式でスタートです。
「おらぁ病院さいぐ、シップはる、薬飲む、・・・・・」と、
いろいろ教えてくれます。
大体出そろった頃合いを見て「足痛いときに、手動かすと治るっ
て知ってましたぁ!」と私。

「なんだとぉ!!!」とは言わないけど、興味しんしんみんなの目
の色が急に輝きだしました。
「右の肩痛い人は、左の肩動かせば治るし、腰の痛い人は足動か
せば治るんですよォ」と私は少し笑って平然と言います。
そんな話を耳にしたみそ汁ばあちゃんは、外眺めをやめて、
「なになに」てなヤジウマ顔になってこっちを向きました。

病院へ行って、注射もしたし薬も飲んだし、いろいろやって、
それでも治らない膝なのに、手を動かせば治るときたもんだから、
信じられない反面、おもしろそうだと思ったのでしょう。

一番前のおじいちゃんなんか、食い入るようにわくわく私
を見ていました。
このじいちゃんは、農家で働き者らしく、腰が痛くてきていたの
でした。じいちゃんの登場は少し後になります。

「ここの真ん中を開けてまーるくなってください」私はみそ汁ば
あちゃんの操法の準備に取りかかりました。
私は「だれでもいいですからモデルになってもらえませんかぁ、
どっか痛い人のほうがいいかなぁ」とみんなを見回したふりをして、
計画どうりみそ汁ばあちゃんを指さしました。

「おかあさん、膝痛そうですねぇ、ちょっとこっちに来てやってみ
ませんか」とにっこりやさしく誘う私。
このとき、「ばあちゃんでてきてぇ」などと本気で思っていることを
言うと、ほとんど尻込みして出てきてくれませんから注意がいります。

操体の指導には高度な心理学が要求されるのです。
予定どうり、ばあちゃんがびっこを引いてよろよろニコニコ歩いて出
てきてくれました。
「こっちの膝がいでんでがすぅ」と笑顔で左びざをさすって教えて
くれました。
みんなが見ているので、ちよっと緊張して、膝痛いくせに照れ笑いの
ばあちゃん。「仰向けになれるかなぁ、ここにちょっと寝てみてぇ」
と私。
「だいじょうぶでがすっ」と丸太をひっくりがえしたようにゴロリと
寝るばあちゃん。

私は、いつもの膝ウラをクグッと探りました。
「これが痛くなってるなぁ」左ではなく、右の膝ウラ激痛でした。
ばあちゃんは、ビグビグッと動き、目を白黒させてびっくりし、
「いでぇなーっ」と顔を上げて私をみました。「右の手をバンザイし
てみてぇ、はい、今度は左バンザイしてぇ」とためしてもらいながら、膝ウラのこりの消え具合を確かめます。
「右手の方が上げやすかったでしょう」私は見た感じと、こりの消え
方で、ばあちゃんが答える前に言い当てました。

「もう一回右手をあげてみてぇ」といいながら、膝裏のコリを探り、
「ほら、そうやって右手を挙げていると、ここのコリ痛くないでしょ
う」とコリコリ膝ウラを押す私。

ばあちゃんは、手を挙げたままビックリ顔でキョロキョロしています。
「その手を気持ちいいなあーって思うように上げてー」。気持ちよさそうに上手に動くばあちゃん。「もういいなぁ、と思ったら力を抜いてェ」。
ゆっくりと手をもとにもどしていい顔のばあちゃん。

二回の右手バンザイでした。これで膝ウラのコリは消えました。
「立って歩いてみてぇ」と私。見ている人たちは、なにがなんだかわ
かんないといった顔ばかりでした。ばあちゃんはトコトコ軽快に歩いています。「正座してみてぇ」と私。「よっこらせっ」と正座してしまった。
少しは痛いようでしたが、久しぶりに正座ができたと喜んでいました。

会場のみんなは、すたすた歩いて座れるようになったみそ汁
ばあちゃんを目の当たりにしてどよめき、「ホォーッ」とか
歓声を上げて拍手する友達ばあちゃんまで出てきてしまいました。

私はびっくりしながらもばあちゃんに、こんな質問をしました。
「おかあさん、だいぶ良くなったみたいなんだけど、これ治し
たのはだれなのかなぁ」。

「せんせですぅ」と私のせいにするばあちゃん。

「ちがうでしょう、おかあさんが自分で気持ちよく手を挙げた
から良くなったんでしょう」と私は少し怒って笑い「みんなも
そうだけど、病院に行かなければならないときもありますが、
今みたいに自分で動きやすいところを気持ちのいいように動か
すと、こうなってつながってますから、関係のないようなとこ
ろが治ってしまったりもするんですね」

「痛いところじゃないところからはじめた方が治りやすいんです」。
「からだって、けっこう自分でも直せるものなんですね」。
おもしろびっくりのばあちゃんの姿を見せられた直後のせいか、
私の言葉がみんなの心にしみこんでゆくような感じがしました。

「次に誰か腰とか痛い人いないですかー」とさっきの働き者の
ちっちゃいじいちゃんと目が合う私。
「やってみますか」。「はい」。てなことで、ノリのいい腰痛の
じいちゃんがホイホイ出てきてくれました。仰向けになって、
膝倒し操法からはじめました。「右に倒すのとぉ、左にたおす
のとぉ」と私はじいちゃんの膝を少し押し倒して手伝いました。

左の方へはすんなりとやわらかく動くのに、右には中央から
硬くて全然動けなかったのです。右に倒そうとすると、上体も
一緒に動いて寝返りするようにしか動けないのでした。
「左に膝を倒してみてください」と私は右手で膝のウラに中指を
フィットさせ肘を締めて、じいさんの膝をヘソに引き込むような
感じで抵抗をかけました。

「痛くないようにぃ、気持ちのいいように動いてぇ、大丈夫です
かぁ、抜きたくなったら力を抜いていいですよぉ」とへらへら私。
じいちゃんは、左に寝返りするように動いて、ゆっくりともとに
もどった。「どうでした、気持ちよく動けましたか」と私。
おかしくもないのに首をかしげて笑うじいちゃん。

膝を倒してテストしてみたのですがさっきと変わらず硬くて
動きません。「これはあまり気持ちよくなかったみたいだねぇ、
じゃあ、別の動きをやってみましょう」と私はカカト踏み込み
操法をすることに決めました。

「片方ずつ、ひざを胸につけるように上げてみましょう」と
私も膝のところをもって軽く胸の方に押しつけてみました。
右が硬い。「こう曲げられて、どっちがつらい感じかなぁ」
「こっちがつらいでがす」とじいちゃんはやっぱり右の尻のあたり
を押さえました。「どうしたらいいのかなぁ」と私はじいちゃんに
質問しました。じいちゃんは、わからないらしく、顔を赤くして、
また首をかしげて笑ってごまかしました。

「左の足あげるんでねぇのがぁ」見ていたおっきいじいちゃんと、
反対側でみていたおばさんが、一緒に教えてくれました。
みそ汁ばあちゃんもうなづいていました。

「はい、それじゃあやってみましょうね、左の膝をすぅーっと
上げてぇ、そうそう、そうやって上げると、こっちの右足は自然に
床を踏むようになるでしょう、こっちの踏む方をカカトで気持ち
よーく踏み込んでみてぇ」。スムースに動くちっちゃいじいちゃん。
「もういいなぁと思ったら気持ちよく力を抜いてよぉー」
少しがんばりぎみのようでしたが、はじめてのことなので、
許すことにしました。じいちゃんは、ゆっくりと力を抜き、
イイ顔でみんなを見回しました。

「もう一回やってみたいかなぁ」。「はい」。
「とにかく、自分で気持ちのいいようにこっち踏んで、
こっち引いてぇ」と私はじいちゃんの右膝の下をすくい上げる
ように持ち、浮いている左ひざは軽く押さえておきました。
「腰も背中も気持ちよくなるようにぃ、抜きたくなったら好き
なように抜いていいですよぉ、腰からフッと抜いてみようか」と
私は期待しないでそう言いました。

じいちゃんのからだが、フッと瞬間的に力が抜けました。
私は「うまいっ!」と言ってしまいました。
そして、ここで普通なら足が上げやすくなったかどうかを確認する
ことになるのですが、私はなぜかそれをしないで、
最初の膝倒しをテストしたのでした。

あれだけ固まっていた腰がストンとやわらかくなったようで、
すいすい膝が倒れるようになりました。
じいちゃんは、びっくりニコニコ起きあがり、うろちょろ歩き回って
言いました「なおった!」と。

周りで見ていた人たちも、じいちゃんの笑顔が伝染したのとビックリ
したのとで、みんないい笑顔になって、私もうれしい気持ちになりました。

みんなで喜んでいると、太ったおばちゃんが質問です。
「せんせぇ、私は右手のこの指がまがんなぐなったんだげんともぉ」と笑ってグーパーして見せてくれました。薬指と小指がしっかりと握れなくて、グーが出せずにいました。私はその手を見ながら「そうやって
握るとつらいんだよねぇ、じゃあどうしたら治るかなぁ」と逆におば
ちゃんに聞きました。向かい側にいたオッキイじいちゃんが、
「ひらげばいいんでねえのがァ」と教えてくれました。

おばちゃんはそれでもなぜか考えている様子でした。
痛い動きの反対に気持ちよく動かせば早く治るぅ。そんなことで
ホントに治るのかねぇ。と目の前で良くなる姿を見せられても
信じ切れずにいるようでした。

「今まで一生懸命に手を握る練習してたでしょう」と私。
「ハイッその通りです」とは言わなかったのですが、おばちゃん
の顔は「バレタカァ」と答えていました。

「こうやって、パーを出すようにパーっと手を開いてみてぇ」と私。
まねして開くおばちゃん。「そうそう、気持ちのいいようにィ、・・
・それでぇ、フッと抜いてぇ、・・・・ハイもう一回パーっと開いてぇ、・・・フッと抜いてぇ、どうですか、痛くないですよねぇ、
けっこう気持ちがイイでしょう。もう一回やってみようかぁ、
練習だからやってみよう、そうそう、肩とか背中の方まで気持ちイイ
なーってなるようにぃ」と私。こうしておばちゃんは三回のパーだし
背伸びをしました。

そうしたら、これだけのことで手がしっかり握れるようになり、
なんなくグーが出せるようになりました。
おばちゃんは、握った手を不思議そうに見ながら、まだどこか疑って
いるような顔で首をかしげ、グーパーグーパーを繰り返していました。
おばちゃんは、きっと今まで自分が「イイコト」と信じてきた価値観
が一瞬にして崩れてしまうことがクヤシかったのでしょう。

私はそんなおばちゃんの姿を見て、「何かにつまづいて転んでみたり、遠回りをして失敗してみたりと、無駄なことをたくさんやってるみたいに見えるけど、それでいいんだよォ。いろいろ味わって、まずは何かに気づければエライもんだよ」と心の中でつぶやきました。
私が自分に送ったメッセージだったのかも知れません。

さっきまで、私の質問をすべてクリアーしたおっきいおじちゃんの番が来ました。おじちゃんは何年か前に脳出血を起こして少し右片マヒがあって、足に痛みとかはないらしいのですが、右腕全体がシビレて眠れないらしく、寝る前に安定剤をのんでいるということでした。
それに、右手がカクカクぷるぷると忙しくふるえていました。
ちょっと不自由そうですが、グーパーもバンザイも出来ました。

アオムケに寝てもらい、いつもの膝ウラを探りました。
左側にでっかいゴリゴリがあり、グッと押さえたら、イタッとなりました。
となる予定だったのですが、これがイタクナイ、ニゲナイのです。
これだけ凝っているのに、「なんだこの膝は?」と思いました。
ときどき、こういう人に出くわします。たぶん、感覚がニブクなっているのでしょう。こういう人は、押さえているうちに、だんだん感覚がよみがえってくるタイプです。

コリッ、コリコリッ、コリッと押さえていると、やっぱりきました。
みそ汁ばあちゃんがきたのではありません。痛みがきたのです。
「あららっ、イデッ、、、イデデデッ、だんだんイデグなってきたー」とおじちゃんは顔をクチャクチャにしてビックリです。

私はこの時、なぜか後でオデコのカワの操体をしようと決心しました。
そしてまずはイイ方の足の操法からはじめました。「この足こうやってあげるのとぉ、カカトで床を踏むのとではどっちがやりやすいかなぁ」と私。
少し考えて「踏む方がイイかなぁ」と、おじちゃん。
「それじゃあこのカカトを気持ちのいいように踏んでぇ、足の先をちょっと上げてみようかぁ、腰も背中もイイ感じになるようにぃ」と私は右手で膝ウラのコリが消えるのを確かめながら、左手で足の甲に抵抗をかけ、目はおじちゃんの全体をなんとなく眺めています。「もういいなぁ、と思ったらストンと力を抜いてよぉ」と瞬間脱力に挑戦してもらう私。

おじちゃんは「ガグ、ガググー、ーーッ」と脱力しました。
私は「ヘッターッ」と思ったけども「うまいねぇ!」とホメました。
おじちゃんはウソとも知らずにその気になって、みんなにウレシイ顔を見せました。左にいた腰の曲がったバアチャンも知らずに拍手をしました。
これで、膝ウラのコリがほぼ消えてしまいました。

動きと脱力で消えたのか、ほめられてうれしくて消えたのかは、わかりませんでした。
私は、予定通りおじちゃんの頭の方にきて、オデコのカワを動かしてみることにしました。髪の生え際に両手の2、3、4指の指腹を軽く当てて、スムースに動く方向を探してみました。頭のてっぺんの方には、固くてまったく動きませんでした。
反対に顔の方向には「ふにょーっ」とすんなり動きました。

どっちが気持ちがいいのか、きいてみると、やっぱり顔の方に動かされるのがイイとのことでした。私は生え際のカワを少し眉毛の方に押し下げながら
「どんな感じで気持ちがいいですかぁ」とタコみたいに変身したおじちゃんの顔にききました。「目の奥がジーーンとしてきて、涙がジワーッとででくるみだいだぁ」とタコおじちゃんが目をつむっていいました。

目の奥が気持ちよかったというので「はい、今度は自分でもやってみてぇ、頭の中がすーっと気持ちのよくなるようにぃ」と私はいいました。
おじちゃんは、オデコのカワをあちこちに動かして「へえーっ、こっちどこっちではちがうもんだなぁ」と驚いているようでした。

「家でも遊びながらでいいから気持ちのよくなるようにためしてみたらいいさ、ねぇ」と私はいいました。
立って歩いておじちゃんは、足が軽い感じになったといいました。でも手のしびれまでは治りませんでした。

歩きながら、おじちゃんのしびれた手がかくかくと揺れ動いていました。
おじちゃんは、その動く手をさも憎らしげに左手で押さえて止めようとしました。
私は「その手がゆれるのは、それでバランスをとっているんだから、止めないで、どんどん気持ちのいいようにふるわしてあげたらいいよぉ」とホントのことをいいました。

みていたまわりの人たちも、「へぇーっ」とびっくりして、みんな自分のオデコを押さえたり、手をぶらぶらしたりして「上だー、下だー」とやりました。
そばでみていた町の保健婦さんがおもしろがってメモしていました。
私は、メモなんかしてないで、一緒にためしてみればいいのになぁと思いました。
その後、ひとりひとりが思い思いの格好で、ひっくりがえって、見て覚えた
操法をワイワイ練習して、終わりとなりました。
宮城県河北町での操体勉強会のひとこまでした。

完。

河北町2 河北町役場にて

今日は、河北町主催の「リハビリ教室」という脳卒中などの後遺症
のある人たちが対象の、操体勉強会でした。
ほとんどのひとは、片麻痺で車いすや杖歩行です。
20名ほどの人がテーブルを囲んでイスに腰掛けていました。
「こんにちわー」(^^)、勉強会が始まりました。

今回は「かわの操法」だけでやってみよう。
そんな気持ちでスタートしました。
「オデコのかわをこうして上と下に動かしてみてぇ」
と私がいいました。
実は、前回もこれは練習済みで、今日が2回目でした。

納豆が大好きそうな、納豆じいちゃんが、
「おれは、上さ引っ張ると、いいんだぁ」
と、家でもやってみていたようです。
そして「上の方に動かすと、すーっとイイ感じになるんだこれが」
「ワルイほうはしないで、いい方にするんだったもんねぇ」
「いい方だけやればいいっていうのは、いいことだねぇ」
「イヤなのはイヤだからしないで、イイのをイイようにやれって
いうんだからイイのよねぇこれはぁ」と、元気で大変いいのですが、
話が粘っこくてちょっとうるさいんです。

そのとなりの、はくさいのつけものが好きそうなばあちゃんは、
「私ゃ、両方の手が痛くて動かせないんで、自分ではできないんだぁ」
と少し、しょげていました。はくさいばあちゃんは、リウマチらしく
手の指があちこち曲がっていました。

その二つとなりの頭に毛のないおやじさんは、勉強会がはじまって
まだ5分位しか経っていないのに、もう居眠りをはじめています。
「眠くなった人は自由に寝ててもイイですよォ」と私が言うと、
となりのおばちゃんが、大笑い。その声で目が覚めてしまいました。

その三つとなりのニコニコおとうさんは、言葉が話せず、
ずーっとにこにこ笑い顔です。右マヒで、いつもメモ帳に左手で
書いて会話をします。

さて、操法がはじまります。
ひとりずつ「カワの操体」を私が手伝って、その味を
味わってみてもらうことにしました。

というのは、前回、説明してやって見せたのですが、
「かわを動かす」と言っても、みんな揉んだり押したり
するだけで、うまいことできなかったんです。

ということで、はくさいばあちゃんからスタートです。
肩、二の腕、肘の下と3カ所のかわを、内と外にねじるように
やってみました。「どれが気持ちがいい? 」と聞くと、
「肘の下を外にしてもらうのがいい」と即答でした。

私がそこをぴったりじゅわ~っと動かしてゆくと、
はくさいばあちゃんは、勝手に手を内側にひゅーっとねじるのです。
動いてくださいと言われなくても、動きたくなったのでしょうね。
カワの気持ちよさで、眠っていた筋肉が目覚めてうごめいている。
そんな感じでした。

「そうそう、動きたいようにいいように動かしてぇ」といったら、
見事に連動して動いてくれました。
「いい感じがなくなったら教えてよぉ」
一分位やってたでしょうか、「はい、よがすぅ」というので、
ゆっくりとかわを戻しながら、へばりついた手をメリメリと
はがしました。

「手がうーんと軽くなったわぁ、さっきまで痛かったのに、・・・」

となりで納豆じいちゃんが「ほおーっ」といいながら、
自分の腕をひねっていました。
ここから、この納豆じいちゃんを「ヤジウマ納豆」と改名する
こととなりました。

さて次はヤジウマ納豆の番です。
納豆は私とはくさいばあちゃんのやりとりをしっかり見ていた
し、やってみてもいたので、すっかり覚えたような、エラそう
な顔をして待っていました。
しかし、その顔もカワを動かされた瞬間に崩れ去ってしまいました。

私が納豆の肩を両手で挟むようにして、かわを外にほんの少し動か
したのです。そうしたら「なんだー、すーっとしてきもぢいいなやー」
ときょとんとして肩を見て「そんなにギッとしてねぇんだなぁ」
といいました。

見ているともっと強くやっているように見えたのでしょうね。
そして、自分でも肩に手を当てて、かわを動かしてみるようにいい、
やってもらいました。
「少しでもきもぢいいんだなやー、これならだいたいの人できるなや」てなことでした。

それにしても、ここにいる人たちは、どうしてこんなに
ワイワイ元気で明るいのだろう。あちこち痛くてマヒしてて
しびれて歩けなくているのに・・・・・・。
不思議な集団なんです。ここの人たち。

電動ドリルおじさんにはびっくりしたというか、少し感動しました。
前回の勉強会のあとのお話です。
保健婦さんが、祭りか何かで使うビニールパイプに穴をあけるのに、
片マヒのおじさんが、動く方の手で電動ドリルを操作して、穴開け
作業をしていたんです。
保健婦さんはパイプを固定して持っている係でした。見ていた私も
手伝ったのですが、やっぱり固定する係しかさせてもらえませんでした。
おじさんが、片手でイキイキと電動ドリルを操作する姿。
なんともいえないイイ気分でした。

今度は電動ドリルおじさんの番です。
左側の手足が硬くなってマヒしていて
「俺は腰がイデンデガすぅ」と笑って言いました。

「どれどれ、腰のかわも動かしてみればイイ感じがあるかも
しれないなー」と私はドリルの横に立って、腰のあたりの洋服と
シャツをまくりあげて、皮膚に直接手の平をくっつけて、
じわーっと下と上に動かしてみました。

私の感じでは、下にはつっぱって動かしにくく、上にはすーっと
動かしやすかったのですが、ドリルは、
「下さしてもらうど気持ぢいいなや~」とのやはり即答でした。

ドリルもやっぱり、カワの動きにつられるように、
背中のあたりも動き出しました。でもドリルはからだの動きには
気づいていない感じで、「へえーっ、かわっこうごがしてるだげ
なのに、なんだやぁ、腰すーっと軽ぐなってきたわー」と
みんなにニコニコアピールしました。

30秒程やってたでしょうか。私は手をはがし、
「ちょっと自分でもやってみてぇ」と言いました。

ドリルは右手を腰に当てて、ちょこちょこ動かして、
「あれーっ、おれがすっと上のほうがきもぢいいなぁ? 、
なんでだべせんせぇ」と首をかしげていいました。

「さっきと今は違うんだから変わってくんのよ、からだも感じも」
「とにかく、その時にイイ感じになるようにかわをずらしてやれば
いいんだぁ」
「ほら、そうやってやっているうちにも変わってくるでしょう、
腰の感じ」
「ほんだねぇ、変わったねぇ、何ともねぐなったら、
もういいんでがすよね」

「いい感じがなくなったら、まあ大体おわりにしていいんです」。

「へえーっ、こんなんで効ぐんだー、かわっこずらすだげでー」
「いやーホント楽になったわぁ」とうれしい顔で
ドリルは立って腰をくるくる回しました。

次は、となりのちっちゃいばあちゃんの番です。
左のマヒで足が痛いという、今回がはじめての方でした。

私は腰掛けているばあちゃんの左側にしゃがんで、
「はじめてですよねぇ、操体は? 」といいました。

「はい」ばあちゃんはぺこんと頭を下げていいました。

ほかの人たちは、好き勝手なことをして遊んでいます。
世間話をしてくすくす笑っているおばちゃんふたり。
居眠りおじさんは、口を開けて、もうすっかり熟睡に
入っています。

そのそばを、だれかのお孫さんなのか、ひとり幼稚園位の
女の子がスキップして走り回っています。

なんなんでしょう、操体の勉強会だというのにこの雰囲気は。
でも、なぜかとても心地いい。このどうでもよさ。

私は片膝をついたまま「どのへんが調子よくないのかなぁ」
とききました。

「足が痛くてねぇ」とばあちゃんは自分の細い太モモを
さすって痛い顔でいいました。
「このへんですかー? 」と私は両手を細モモの前に
そっと置いて、かわを内と外に動かしながら
「どっちがイイ感じがするかなぁ」とたずねました。

「そりゃ、内のほうがいいですぅ」とのことで、私は
ズボンの上から、じわーっとモモのカワをウチに動かし、
「・・・・・・・」と少しだまっていました。

するとばあちゃんが、なにやらぼそぼそと話し出したのです。

「わだしはねぇ、42のときに頭の血管がつまって
左の手足が動かなくなってねぇ、そのあど心臓も何回も
手術して、ほらこごさこんなのくっついでるんでがすぅ。
なんでこんなごどになってまで生きねばなんねぇのがねぇ」
と、しっとりうるうる話すのでした。
そのとき、私は、何も答えることができなくて、ただ
だまってその話をきくしかできませんした。

一分くらいたったでしょうか。
私は「こうしてもらっていると、気持ちいいですかぁ? 」
と、手を当てたままききました。

「いいきもぢでがすう」ばあちゃんは少しほほえんで
そういいました。

次は、この会が始まってからずーっと居眠りばかりしている
イネムリおとうちゃんの番です。
車いすに座っていて、両足の自由がききません。

「どうですか、ちょっと眠いですか? 」と私。

「へへーっ」(^_^;)と笑ってごまかすイネムリおとうちゃん。

私は、なんとなく頭のかわを動かしてみることに決めました。

「おでこの髪の生え際のかわを動かしてください」

この説明だけだと、イネムリおとうちゃんのように髪の毛が
ない人は、へたすると後頭部のカワを動かすことになってしま
います。それでもいいのですが、おでこのかわの操体のやりか
たを教えることにしました。

「こうして、目を大きく開けるとヒタイにしわが寄るでしょう。
そのしわのてっぺんあたりだと思ってイイです。
そのへんのかわを上下左右に動かしてみるんです。

指先でもイイし 手のひらでもイイですから、」と私は
右手で頭の後ろを支え「こうしてこれが上と、下の感じ、
これが右と左の感じ、どれがイイ感じ かなぁ? 」と、
左の手の平をぴったりとオデコにくっつけて、じわーっ
と動かしました。

「上がイイなやぁ、頭、すーっとしてきもぢいいネェ」

「強さはどうかなぁ、もうちょっと強いとこんな感じ、弱いと
こんな感じなんだけど、とっちがいい? 」

「強い方がよがすネェ」

「このくらいでいいかな? 」

「んだねぇ、そんくらいがイイなやぁ」

「いい感じがなくなって、もういいなぁと思ったら教えてよぉ」

このときのイネムリおとうちゃんの顔はとてもいい顔でした。
あまりよく見てしまうと「ぷっ」と吹き出して笑ってしまいそうになります。

斜め向かいの世間話おばちゃんふたりは、この顔を見て
指さしてくすくす笑っていました。

私もこらえきれなくて少しだけ笑ってしまいました。

「もういいねぇ」。

私は、ゆっくりとかわを元に戻し、めりめりめりりっと手を
はがしました。

「どうですか、こんな感じで居眠りしながらでもイイですから
やってみてくださいね、できそうですか? 」。

「はいっ、」(^^)と、イネムリおじさん、やっとお昼寝から
目覚めたようでした。

今度は、右マヒで話すことができないメモおじさんの番です。
いつもニコニコのメモおじさんは、私が「どうですかぁ? 」と
背中に手を当てたら、すぐにメモを始めました。

メモおじさんは、にこにこしながらちっちゃいメモ帳に、
ものすごくヘタクソな字で、一生懸命ゆっくりと

「じしやくのまつとはどうですか」と書きました。

なっなんだこれは? 。と私は目を細めてよーく見ました。
すると、「じしゃくのまっとはどうですか」
「磁石のマットはどうですか? ですかぁ?」とききました。
メモおじさんは、にこにこウンウンうなづいて答えました。

「きもちがよければいいとおもいますよぉ」と私。
するとメモおじさん、納得がいかなかったとみえて、
すぐさまペンをとり「先生はどうしますか? 」ときました。

「せんせは使いません。でも使いたい人はためしてみれば
いいでしょうね」とお話ししました。
納得したのかメモおじさん、ニコニコ笑顔を振りまいていました。

私は、いつもニコニコしているので、顔のカワを動かしてみようかと
思っていたのですが、メモおじさんは右の肩を指さしてにこにこ
うなづきました。

「肩が痛いんですか? 」

ということで、肩をやることになりました。
私は後ろから両肩をはさんで包み込むようにして、右肩のかわを
前に、後ろに、上に、下に、と動かして感じをつかんでもらいました。
「どれが気持ちよかったですか? 」

メモおじさんは、左手で後ろを指さしてにこにこ合図をくれました。

「後ろがいいんですね、このくらいでイイ感じあるかなぁ? 」私は
右肩のかわを後ろに動かしました。

メモおじさんの肩は後ろに動いてきました。
自然にからだが右にねじれてきます。

「どうですか、いい感じですか? 」

うんうんうなづくメモおじさん。

「いい感じがなくなったら、合図してよぉ」

そうしたら、つんつんと私の肩をだれかがつっついて合図しました。
なんだぁ、と思って振り向いたら保健婦さんです。「せんせぇ、
もう時間ですぅ、バスきて待ってますんで、そろそろぉ」との
ことでした。

「あら、もうそんな時間。わかりました」と私はにこにこ
メモおじさんの、肩のカワをゆっくりもとにもどして、
「こんな感じで、家でもやってみてくださいね」。といって、
背中をささーっ、ささーっとなでさすって、おわりにしました。